久しぶりに読んで、ミステリーの面白さを思い出した1冊、

『Summer of the Big Bachi』。
直訳すれば「大きなバチがあたった夏」だが、日系アメリカ人作家がヒロシマ出身の庭師、マス(マサオのアメリカ名)を主人公にしたものなので、このように日系人が使い続けている日本語が混じっている。慣れると、ローマ字で英語を読む感じで語彙が多くなった気になり、これらの語彙に説明が必要な英語圏の読者たちに優越感さえしてくる。
作者は推理小説の輝かしい賞、エドガーアランポー賞の受賞者でもある。もともとは、ロサンジェルスの日系新聞『羅府新報』(らふ=ロサンジェルスの漢字名)の記者で日系2.5世(父はアメリカ生まれだが戦前に広島に戻り敗戦後帰国した「帰米」、母は広島出身の日本人)。本作のヒーローの生い立ちは、かなり作者の父に重なる。
舞台はパサディナ、実はわたしが長く住んでいた街である。もうひとつの舞台はヒロシマ、これまたわたしは知り合いの多い街で、ちょっとした土地勘もあるところだ。こんなところから、最初は手にした本だった。
ミステリー仕立ての、上質社会派小説というところが、わたしだったら「松本清張賞」をあげたい。読み出したら、とまらなくなってしまった。ひとことで「日系人」といっても、年配日系人には大きく分けて、アメリカ生まれだが戦争中は日本にいた「帰米」(kibei)と、アメリカに留まってcampと呼ばれる強制収容所に入れられたか、アメリカ軍人として戦争に出た日系人に分かれる。その2派それぞれの典型的特徴や、現代日本への思い、アメリカ化していく子孫たちへの思いなどが、現代広島の土地の利権に関わるある殺人事件の筋に織り込まれているのも読み応えある。
タイトルの意味は、もちろんピカドン、原爆である。ロサンジェルスの日系人には、ほんとに広島出身者が多く、原爆手帳を持っている人もかなりの数だったようだ(高齢だったり、ガンが多く、亡くなった人も増えた)。本ミステリーのキーとなる人物は、他者になりすまして戦後アメリカ、LA近郊で暮らしていたある男。人物像がリアルで、「あの人だろうか」と、いないはずの人の顔まで浮かんでくる。
ミステリーのよさは、どんどん「多読」すること。困ったところは、他のことがおろそかになってしまうこと。案の定、同作家のマスを主人公にした

『Gasa-Gasa Girl』も、ほら、読みたくなってしまった……。